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アントニン・レーモンド設計『英彦山・山の家』

2016-10-03 (月) 14:05:14 (293d)
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 「英彦山・山の家」は、「日本近代建築の父」と称されるアントニン・レーモンドの設計による、旧八幡製鉄?の保養施設であり、1960年(昭和35年)に竣工した。山の中腹に屹立しているかのような雄姿は荘厳な英彦山の持つ独特の雰囲気と調和しており、英彦山神宮奉幣殿と共通するボリューム感を感じさせる。これは鉄筋コンクリート造の主架構に架け渡された木造の屋根構造と深く張り出した軒によって作り出される大屋根が、神社建築の屋根を無意識に想起させるからと推察されるが、レーモンドが奉幣殿を意識したかどうかは定かではない。しかし、レーモンドが確立した、いわゆる「レーモンドスタイル」といわれるモダニズム様式が、まさに伝統的日本建築の構成要素から生み出されたことの証の一つと言ってよい。屋根以外にも、「レーモンドスタイル」の要素は随所に見られ、スケール感のある空間や重厚さを有しながらも、様々な有機的素材の利用や細かなディティールにより、訪れる人々を温かく迎え入れてくれる建物に仕上がっている。
 アントニン・レーモンド(1888~1976)は、チェコに生まれ、後にアメリカへ渡った建築家である。1919年(大正8年)、旧帝国ホテル(東京・大正12年竣工)の設計監理のため、「近代建築三大巨匠」の一人、フランク・ロイド・ライトに伴って来日した。彼は、旧帝国ホテル竣工後も日本に留まり、多くのモダニズム(普遍的合理性を目指す近代科学的な建築手法)に基づく近代建築を残し、日本建築の近代化に大きな影響を与えた。前川國男や吉村順三など、戦後の日本を代表する建築家が彼の下で育った。日本の近代建築史上、決して忘れてはならない建築家である。
 この年には、彼の設計による「門司ゴルフ倶楽部・クラブハウス」も竣工しており、こちらは2014年(平成26年)に登録有形文化財に指定されている。このように、日本の高度経済成長期に、当時日本を代表する建築家によって建物がつくられたことは、高度経済成長を支えた北九州・筑豊地域の繁栄に伴い、英彦山が北部九州の保養地として確たる地位を有していたことを意味する。現在の「英彦山・山の家」は、築後50余年を経て老朽化が目立っており、衰退する北九州・筑豊地域の写し鏡とも言えるが、今後の再生利用による存続を期待したい。

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